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思った以上に。

 投稿者:KAOKAO  投稿日:2014年 3月26日(水)09時06分56秒
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  更新してませんねぇ…(汗)。
そんな気は無かったんですが、ここで書き殴っていたりしたからかなぁ? ちょっとムボーなことしてみるかと、ちょっと水面下で頑張っているんですが。…って大体、そう宣言しても、ねぇ(笑)。


「やるでー、今度こそ」
 並んで寝そべっていた河原縁で、突然そう宣言したアリスがムクリと起き上げる。
「今度こそ? 何を」
 いい年した男が二人するこっちゃねぇなと思いながらも、アリスに誘われて寝そべってみれば、気分はそう悪いものじゃなかった。
「色々とや」
「ふーん」
と、気のない返事をしてみたが見事にそれはスルーされてしまった。
「春休みって宿題とかがない分、なーんか気付いたら終わってたって感じ違た?」
「違った。ご期待に添えないが」
「……そやから、今度こそはって、意思表明」
 再び俺の答えはスルーかよ。やれやれ。大体だな、基本的に間違いがあるだろうが。
「意思表明はご立派だな。学生どもに聞かせてやりたいぜ。だがな、アリス。お前に春休みがあるのかよ? そんな職業だったっけ?」
「毎年漠然とし過ぎてるんやんな、計画が。今からやったら一ヶ月ほどやろ? なら四週や。週一くらいで予定を立てて、計四回。どうや? 火村」
 ここまでスルーしておいて、最後に同意を求めてくるって、それってどうなんだよ。
「夢でも見てたのか? 寝そべりながら。お前は社会人だし、俺はやっとこさこの四月から講師になれる」
「そうやな。まず一週目はおめでとうさんって事で、ゆっくり前途洋々な火村先生の展望なんかを飲みながら語り明かそうやないか。それは俺んちで」
「……」
 全く、夢見る夢男くんめ。訂正を求める気にもならない。
「次の週は、旅行行こ。一泊二日でもいいやん。俺、奈良に行きたいな。天川がいいな」
 一週目はいい。二週目の旅行は……調整が必要だな。
「君はどこが良い?」
 やっとアリスがこっちを向いた。独り言ではなかったようだ。俺は苦情を言う事もなく、意見を述べる。こうなれば満足するまで付き合ってやるかという心境で。
「……海が見てえな」
「ふーん。じゃあ三週目、そうやなぁ……淡路島なんてどうや?」
「立て続けに旅行か? それはちょっと待て」
「あかん。日は君に合わせる。三週目は淡路島」
「……好みは言えるってんなら、日本海が良い」
「じゃあ、丹後」
「けど、おい」
「そして最終週は───」
 アリスが寝そべったままの俺の方へと少しだけ身体を寄せて、真上から覗き込んできた。穏やかな微笑みに、少し戸惑う。
「火村んちに居ててもいいか?」
 これは本当に、
「何かあったのか? アリス」
「心配してくれてんのか?」
「当然だろ?」
「なんで? 友人やから?」
「そうだって言ったら拗ねるくせに」
「拗ねるか、アホ」
「寂しいねぇ、Honey」
 軽口を叩いてみたが、アリスは乗ってこなかった。それどころか、表情は一層穏やかで、それがアリスは真剣だと教える。
「君が一段上に行った。なら、俺もそうしよう。……いいや、そうしなあかん。そう思って、俺……」
「アリス? 一体どうした?」
 少し俯いたアリスの表情は、逆光で眩しくてはっきりと見えなくなっていた。泣いているのかと思ったが、聞こえてきた声にその様子はなかった。
「俺、昨日で会社退職してきたんや」
「……はぁ?」
「別に不満があったとかいう事や無くて、今まで仕事と平行して作家業してきたんやけど、君が講師になるって聞いて、なんや俺も本腰入れて作家業に絞って見るかなーなんて思ったんや」
 一気に言い切ったアリスは、泣いているのではない。照れているのだ。
「きっかけをもらったって感じかな。講師の次はきっと助教授。その次は教授かな? 君に倣って、もうちょっと自分の事追い込んだ方がいいって思ったんや」
「俺は別に……自分を追い込んでるわけじゃ───」
「わかってる。違うって。なんていうか、作家になりたいって夢は掴んだ。でも、なるだけやったらなんか違うんや。それで食べて行かれへんかったら、作家ですってなんか……烏滸がましいっちゅうんか」
 そこで一旦言葉を切って、アリスが顔を上げる。
「胸張って、誇りを持って作家ですって言えへんって思ったんや。それだけや」
 そう言って笑った。
「だから、“春休み”?」
「ああ。最初で最後の、社会人の春休み」
 再びアリスが俺の隣に仰向けになる。
「あのなぁ、お前。勘違いしてるだろ? 春休みなのは学生だけなんだぜ?」
 そう言っても、半分学生みたいなものかもと思う。助手とはいっても勉強させてもらっていたみたいなもんだ。
「新しいステージに行く前には、必ず春休みがあるもんや。力を蓄えて、次のステージにステップアップや……なっちゃって」
 あはは、と笑うアリスの髪に手を伸ばした。さわり心地が良いことに唇が綻んでしまう。
「じゃあ、四週目、覚悟しとけよ?」
「覚悟?」
「“そういうコト”だろ? 要するに」
「……“ソレだけ”でもないって分かってるやろうな?」
「当然だろう? 日中は流石に大学にも顔出さなきゃなんないだろうしな」
「ま、仕方ないやろな」
「ばあちゃんもいるしな」
「そうやで?」
 アリスが笑う。俺も笑えて、身体をグルリと180度回転させた。アリスの身体に覆い被さる。
「あ、あほ! どこ乗ってんねん!」
 途端に真っ赤になったアリスの頬を掌で挟み込み、有無を言わさず口づける。
 楽しいとはこういう事か? 自分一人で沸き起こす事の難しい感情。
「最高だよな、お前」
 自分でも滑稽だと自覚があるくらい満面の笑みでアリスを見下ろして再び口づけた。アリスは諦めたのか、今度は抵抗するどころかそっと俺の腰に腕を回してきた。
 抱き締めるというよりも緩い縛め。
 唇をゆっくりと離すと、アリスの閉じられていた瞼もゆっくりと開いてくる。
「火村……」
 呟かれた名前に、今まで合わせていた唇の温度が少し上がった気がした。
「俺がお前のステップアップの切っ掛けになるっていうんなら、更に鋭意努力するさ」
「え?」
「のんびり行くかとも思っていたが……貪欲に行くさ。さっさと上へ上がってやる」
「……俺のために、か?」
 くすくすと笑い声が耳を擽る。
「モチベーションの問題さ。お前が上に上がろうとする切っ掛けに俺の昇進がなるってんなら、お前が上へと行こうとする意欲を俺が沸き立たせるって思って俺も頑張るさ」
「なんか俺、火村に頼りすぎかなぁ」
 そう言いながら、悪びれない風で笑っている。
「俺も頼ってる。お前の作家デビューは俺のいい刺激になったことは確かだし───」
「ふん」
「これからも頼りにしていいんだろ? センセイ」
「そんな気、ないくせに」
 一瞬だけ表情を曇らせたが、乗り上げアリスの身体に少し力が篭もったと思ったら、頭を浮かせてキスしてきた。触れて、すぐに離れる。
「大いにしてくれ。ただし、今言った予定、オールクリアが条件やで?」
 春だ。
 浮かれているのはお互い様だ。
「いいぜ、四週目、期待してくれ」
「……それ、ゴールか。爛れてるなぁ、君は」
「俺だけ?」
 囁き声で問い掛ける。
 途端に耳を赤くしたアリスが、
「訂正する。火村と俺とがや」
「よくできました」
 俺は三度、口づけた。
 
 
 
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